天 −そら−
辺りは見渡す限りの砂漠である。
その砂漠の中を、シュン・スク・セイは一人、倒れそうになりながら歩いている。
世界の暴走は、ある日突然に起こった。某軍事大国の軍事コンピュータがほぼ同時に暴走し、そして世界中で、あのおそるべき兵器が炸裂したのである。
全てのコンピュータを制御していていたマザーシステムの故障と考えられるが、今となってはもうどうでもいい話だ。
この緑人の大破局は、一千万年前の旧人類の大破局に酷似している。しかし、実際は旧人類のそれとは比べ物にならないほどの、悲惨な破壊だったのである。
緑人ばかりか全ての生物を根絶やしにし、全ての形ある物を灰塵に帰してしまったのである。
しかし、シュン・スク・セイだけが、一人生き残った。
地球上で生きているのは、シュン・スク・セイただ一人…。もう書くまでもないだろう。全ての生命が一つになり、彼女の体に宿っているのだ。
ついに彼女は砂上に伏した。緑人の、いや、人類の、いや、全ての地球生物の歴史の終りが、今まさに来ようとしている。
彼女…というよりも、彼女に宿る巨大な生命は、自問自答を始めた。
（とうとう終わるのか…。）
（あの豊かな星も、今ではこの有り様だ…。）
（だが、これは我々がやったことだ。）
（これこそが、我々の導いた結果なのだ。）
（ああ、我々がこの地球の上にあったということは、一体何を意味していたのだろう…。）
（無意味な…あまりにも無意味な…。）
（いや、そんなことはない。）
（形を持ち、進化し、地球外の生命と接触し、そして今地球から消えようとする…。この一連の事には、何かしら意味があるにちがいない。）
（そういえば…この地球上で、たくさんの事を学んだような気がする。）
（そうだ…分かれてつながり、つながり分かれて…。）
（そうして得た全ての経験が、全ての記憶が、我々の中に生きている。）
（いつまでも…。）
（そう、いつまでもだ！）
（我々は終わるのではない。）
（我々は、）
（始まるのだ！）
自問自答が終わる。
ついにシュン・スク・セイは、息絶えた。
だが、彼女は死の直前に、『ひとつ』の子供を産んだ。
緑人ではない。新しい生物でもない。
彼女が産んだのは、一つの小さな、光輝く球状の物体であった。
それは膨らみ、やがて巨大な球となった。
そして宙に浮き、天高く舞い上がった。
物体は、宇宙へと飛びたった。
光よりも速く、宇宙を飛んだ。
宇宙船が飛んでいる。
中には、水晶球とモノリスが乗っている。
モノリスは、窓の外を見ている。
その時、モノリスは声を上げた。
「あっ。」
「どうしたの？」
「今、光がものすごいスピードで飛んでいったんだ。なんだか…とてもなつかしいような…光だった…。」
その生命は、どこに、そして何を目的として飛んでいくのであろうか。
新しい星を見つけることであろうか。それとも、新しい星を創ることであろうか。
答えは、誰も知らない。
水晶球も、モノリスも、そして生命自身も知らない。
「天 −そら−」 完
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